2014年7・8月号 特集 座談会「顧客対応の変化」

通信販売では唯一、顧客との接点である顧客対応担当者。ネットの普及によって顧客が情報を持ち、変化する中、顧客対応の面ではどういった変化があるのだろうか。そこで今回は、会員企業4社の顧客対応部門の方達にお集まりいただき、顧客対応担当者の課題や通販の中でどのような役割を果たしていくべきかについて話し合ってもらった。(司会:JADMA常務理事・事務局長 万場 徹)

 

髙島屋
藤井 京子

89年日本橋店入社。店舗受付として10年間店内案内の他、クレームも数多く受ける。育児勤務を経て3年前より現職。座右の銘「笑門来福」 。

東京糸井重里事務所
若田 真衣子

クレジットカード会社でのコールセンター勤務を経て、2009年東京糸井重里事務所へ入社。顧客対応業務に従事。現在に至る。

富士フイルムヘルスケアラボラトリー
板橋 正道

1984年 富士フイルム(株)入社。商品開発、品質保証を経験し、2006年事業開始とともに、現職。

やずや
座親 ゆかり

1997年やずや入社、香醋担当業務、企画を経て2009年からお客様満足推進室へ配属。

 

 

■顧客対応部門が抱えている課題とは

50~70代のお客様に寄り添うための「感性」

―まずは各社の顧客対応部門の体制について教えてください。

若田 東京糸井重里事務所の若田です。弊社はコールセンターを持っていなくて、「カスタマーリレーションズ」という部署の3名が顧客対応を行っている体制です。

板橋 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリーの板橋です。弊社は30名ぐらいいて化粧品とサプリメントは分かれていますね。電話対応とWeb対応、そして債権の電話対応と3つに分かれています。

藤井 髙島屋の藤井です。私はクロスメディア事業部の顧客対応部門です。一時対応は外部に委託しているコールセンターが行いますので、私たちまで上がってくることは少ないですね。コールセンターは札幌と松山の2拠点。全部で200人くらいです。

座親 やずやの座親と申します。弊社もグループ会社の中に「ワイズヒューマン」というコールセンターがありまして、スタッフは全部で300人ぐらいです。それとは別に社内の方に私が責任者をしております「お客様満足推進室」というのがあって、正社員と契約社員含めて40人前後います。この中にまた社長室と相談室をおき、お客様の情報に合わせて対応しています。

―このような体制のなかで、みなさん何か抱えている課題はありますか?

座親 20~30代の若い社員が多いので、どうしても50~70代のお客様のニーズというか感情に寄り添えない。そこをどう感性で補うかという仕組みづくりが課題ですね。例えば、弊社は福岡の新天町に店舗をもっているのですが、そこにいらっしゃるお客様を接客します。あと、社員が直接お客様のお宅を訪問させていただくということももう何年間も続けています。

藤井 わかります。うちも一時対応を外部委託にしたことでトークのスキルが非常に上がった反面、髙島屋という百貨店としての温度感というか、マニュアルでは伝わらないところをどう説明していくかが難しい。3カ月に1回の頻度ですが、私達が現地に行って教育した人には伝わりますが、それをどう共有化させていくかが大きな課題になっていますね。

1案件1人ではなく「精神的な分業」を

―クレームや問い合わせなど、年間どれくらいありますか?

板橋 全部で32,000件ぐらいです。

座親 嬉しいお声が30,000件、クレームが700件、問い合わせが1,000件、ご意見が5,000件です。

―嬉しい声が多いのはさすがです。意外と問い合わせが少ないですね。

座親 オペレーターがすぐに回答できた質問は集計に入っていませんので、数としては少なくなっています。

藤井 問い合わせ件数は27,000件、うちクレームは1%未満です。

若田 全体で13,000件ほど、そのうち100件ほどがクレーム、800件ほどが感想です。

―厳しいクレームを受けた後の心のケアについては、みなさんどうされていますか?

板橋 まず、悩みをよく聞いてあげる。あとは1つの案件を1人がやるんじゃなくてみんなでやる、というように精神的な分業をしてあげるのが一番良いのではないでしょうか。例えば、うちでは不等なクレームを入れてくるお客様からの電話で精神的にまいりそうな案件では、後ろでモニタリングしてメモで指示する。お客様として接するかクレーマーとして対応するかという判断をこちらがしてあげることで精神的に非常に楽になる。

座親 日曜日であってもコールセンターが迷うことがあれば、私と連絡が取れるという体制になっています。そこで指示やアドバイスができるので、コールセンター側も安心している。そんなに頻繁にかかってくることはありませんが、常につながっているということで安心感があるようですね。

藤井 弊社は外部委託で、また遠隔地のため、みなさんのように直接は助けられませんが、きちんと対応してくださった方には必ず感謝の気持ちを伝えるようにしています。もし現場でイヤな思いをされても、それで終わらないように、私達もみんなを支えているんだよ、という気持ちを表現するよう心がけていますね。

―そのような厳しい顧客対応をする中でストレスをどう解消していますか?

若田 もともとうちは3人でやっていますから、すごいクレームが来た場合は全員で良かったこと、良くなかったことも含めて気持ちを共有して、あまり後にストレスをひきずらないようにしていますね。

座親 うちも最終的な対応を行うのが3人なので、そこで失敗したことや互いの苦労は3人で解決していく、席が近いということもあってよく「聞いてくださいよ」「大変やったね」なんて声をかけ合っていますよ。

―抱え込まず、長引かせないということでしょうかね。

■ネット以前と以後では顧客はどう変わったか?

メールの普及によってお客様の苦情が過激に?

―若田さんのところはコールセンターがないということは、メールがメインなのでしょうか。

若田 基本的にはお問い合わせもメールでくださいという形なので、ほぼ9割がそうですね。電話でのお問い合わせにも、メール対応と同じ3名で対応するという体制です。ただ、メールでは細かいニュアンスを伝えるのがむずかしいという問題はありますね。今の会社に入る前、別の会社でコールセンターの仕事をしていたことがあったので、転職直後はメールがまだるっこしいと感じることもありました。例えば、回答が一行しかない場合も、気を遣わないといけないじゃないですか。今はもうメールにも慣れて、こちらの方が言いたいことを整理してズバッと伝えることができるようになりました。

座親 その逆に、お客様の方もメールになったことで苦情が過激になりますよね。

板橋 一長一短ですよね。言い切る時はメールの方が楽な時はある。ただやっぱり後で残ってしまうものなので、お客様に送る前に必ずチェックもしないといけませんしね。

若田 私も以前、お客様にお返しした返事をSNSで貼り付けられていたりしたことがありました。こんな質問をしたら糸井重里事務所からこんな回答が来ましたと。私の名前も公表されるので、ちょっと困りましたね。

板橋 うちはメールの場合、返信者の名前を入れません。なぜないんだという質問も稀にありますが、1人で対応をしているわけではありませんのでとご説明します。実際にセンシティブなものですと、僕もチェックしますし、3~4人の目に触れてからお返事しますからね。

座親 うちは必ず部署名、責任者名を書きますね。何回もやり取りをしなければならないものはメールや手紙ではなく、必ず電話で対応します。

藤井 弊社も私たちまでエスカレーションが来た場合は名前を入れますが、基本的にはカスタマーセンターから返信するものは全て「クロスメディア事業部」のみですね。

ネット上の“不正確な情報”で問い合わせをされる人が増えた

―今のメールのお話もそうですが、やはり通販にもネットの影響というのは感じますね。

板橋 ええ。最近感じるのは、付け焼刃の知識で問い合わせる方が多くなったということですね。例えば昨日、ステロイドと化粧品の成分の「グリチルリチン酸ジカリウム」という成分がそっくりだから良くないというお電話をいただきました。結論から言うと、まったく違うのですが、その方はネットで見たことを完全に鵜呑みにしてしまったようです。こういう不確かな知識で、成分の細かいところを突いてくるという方が非常に増えている気がしますね。

―ネットでいろんな情報が入手できるようになったことで、その情報に振り回されている感じもありますよね。

板橋 問題なのが、コミュニケーターもそこまで専門的な知識はないし、お客様の方も化学的なバックボーンがないということ。わからない者同士で話をしてもしょうがないので結局、研究や開発の部署の人間に聞かなければいけないのですが、彼らも忙しいし、コミュニケーターにわかりやすく噛み砕く時間もない。そこで、この両者の間を「翻訳」するという仕事が最近非常に多いのです。

藤井 それ、すごくわかります!私のところも多いです。

座親 あと、ネットでニュースになったことに対しての反応がすごく早くなっている感じがしませんか? ネットで騒ぎになっているので、これは危ないなと感じてコールセンターに「こういう質問が来たらすぐこっちに回して」と指示したり、FAQを作ったりしている前に来ちゃいますからね。もちろん基本的な答えは用意してありますが、この早さにはやはり驚きますよね。例えば、最近の中国産鶏肉の件などはすぐに「やずやは大丈夫なの?」というお問い合わせが来ましたよ。もちろん、しっかりと安全性を説明すれば、ご理解いただき安心されるのですけどね。

■通販の変化は顧客にどう影響するか

産地証明など「安心」は通販ならではの付加価値

―通販がいろんなニーズに応えられるようになったことで、顧客に難しい問題も出てきていますね。

板橋 あれだけショッキングな報道がされているので、お客様が「中国産」に敏感になるのは当然だと思う反面、サプリメントの場合など原料の中では世界で中国しか作っていないものもあるので、やはりゼロというわけにはいきません。かなり難しい問題ですよね。

藤井 衣料品でも同じですよ。うちにも「髙島屋さんだから中国製の服なんて売らないって思っていたのに、がっかりだわ」みたいなお言葉をいただくこともありますから。あと食料品に関しては、残留農薬とか放射性物質がどれくらいなのかということを気にされて、産地証明を付けて欲しいというニーズも多いですね。

若田 うちもアパレルや食品を扱っていますが、中国製ということと同じくらい、放射性物質を気にされる方もいらっしゃいます。震災直後はもちろんですが、今でも、新商品を出すと「詳しい産地が書いてないですけど安全性は大丈夫ですか?」と心配される方が少なからずいらっしゃいます。

座親 うちも扱っている雑穀米はすべて国産なのですが、やはり米どころといえば東北を連想される方が多いようで心配する声も多いですね。もちろん線量検査などは行っていますが、証明書や分析表をください、そうじゃなきゃ子どもに食べさせられないとおっしゃる方もいますね。

藤井 でも、私はそれもいいかなと思っています。店頭でのサービスがなく、定価で販売している中で、通信販売の付加価値って何だろうと考えた時、産地証明書のような「安心」というのも一つだと思います。それが私たちの役割の中に入っていると思えば、苦ではないですね。

座親 そうですよね。うちも個別対応ですが、「香醋」だったら63球、袋全体ではなく1粒当たりどうなのかとかいう成分を電卓で計算して、手紙に書いて送るということもしています。お客様からご要望いただければできる限りの「安心」を提供するのが我々の役目ですからね。

「自宅まで来い」という顧客の怒りがおさまった理由

―問い合わせや苦情において、最近の傾向は何かありますか?

若田 やはりこれだけネット通販が普及してきているので、他社のネット通販はこういう風にしてくれたのに、お宅はやってくれないのかというようなことをよく言われますね。他社さんの取り組みをすべて知っているわけではないですし、事実がどうかもわからない中で、どこまで対応すべきか悩みますね。

藤井 同感です。弊社のネット通販のお客様がこれまでの通販のお客様と大きく違うのは、「スピード感」を求められる方がとても多いということです。どうしてもアマゾンさんと比較されて、「なんで翌日届かないの?」なんて苦情も多い。サイトも贈り物の”のし”を入れたり、包装体裁の指定など細かい対応をしているつもりですが、それがかえって「使いにくい」と感じる方もいる。今までは他の百貨店と比較されていたものが、ネット全体で比較されるという変化ですよね。

座親 エスカレーションして最後の最後に私たちが電話すると、まったく態度が豹変しているというケースも増えてきている印象です。まあやはり時間が経っているのと、それなりの役職・立場の者から電話がかかってきたということで安心されるのかもしれませんね。

藤井 ご納得されるんですよね。ちゃんと受け止めてもらえているっていうか。

座親 それで一つ思い出したことがあります。山形のお客様にうちの配送ミスで違う商品が届いてしまったことがあったんです。お詫びし、宅配での引き取りをお伝えしたのですが、そのお客様の気分を害したようで「山形まで取りに来い」と。今から飛行機に飛び乗ればすぐだろうというのです。私の部下が対応し、どうにか引き取り交換でということで対応していたのですが、その間にいろいろ調べて、山形まで行けそうな者を調整してどうにか目途もついた。そこで最終的に「伺います」とお返事したところ、そのお客様が、「そこまで考えてくれたんだったらもういい。ありがとう」と怒りをおさめてくれたのです。

―できないにしても努力するべきということでしょうか。

座親 そうかもしれませんね。お客様にしたら、時間をかけてそこまで努力したというこちらの姿勢に満足していただいたのかもしれません。

■JADMAが顧客対応部門にできること

“1人旅”である顧客対応が全体のためにできることは何か

―他のみなさんも何か感じている最近の傾向はありますか?

若田 うちの場合、古くからうちのサイトをよくご覧になっていて、ずっとファンでいてくださっている方も多いので、想いが強いあまりにすごく激昂されるパターンが少なくありませんね。「糸井重里」や「ほぼ日刊イトイ新聞」にはこうあって欲しいという理想があるので、少しでもその方の期待に添えないことがあるとものすごく激しい怒りに変わります。

板橋 それはわかりますね。うちも「フイルムは好きだったけど、通販はダメだな」とか言われますよ。あとは「富士フイルムともあろうものが」とか。

藤井 弊社へのお叱りでも必ず枕詞のように「天下の髙島屋が」と言われます。でも、そういう“ファン”の方たちにいかに満足していただくかが自分の中では課題で、今後は担当を決めてしまうというと極端ですが、コンシェルジュサービスのようなものをやっていけたらいいなとは思っていますね。例えば、ジャケットをご注文いただいたら、他の注文履歴を確認して、こちらもお似合いですよ、とか涼しい素材ですよとご案内するなど。

板橋 百貨店といえば、お得意様に対して特別に手厚い対応をする「外商」というのがありますよね。一方で通販はすべてのお客様に平等に接するという面もある。その辺の折り合いはどう付けていますか?

藤井 お得意様は顧客担当部門ではなく、バイヤーが直接お好みをうかがったり、ご案内する機会を設けていますが、バイヤーは30人くらいしかおりません。このようなお客様を増やしたいので、コールセンターの方でも引き継ぎたいと思っています。最初は一部のスキルの高い人だけしか対応できないかもしれませんが、そのためにも協力体制も含めて全体をどう引き上げるか考えています。

若田 全体の引き上げといえば、こんなことがありました。2~3年ほど前、手帳カバーの製造委託をしている中国工場でトラブルが続いてなかなかうまくいっていなかった時があったのです。そこで、うちの品質管理のメンバー達が視察に行く時、お客様からの感想メールも持参したのです。10~20通ぐらい私がピックアップして中国語に翻訳してもらいましたが、それを読んだ中国の工員さん達の表情がガラリと変わって、それ以降、品質が良くなったのです。

座親 生産者の方へお客様の想いや声をお伝えすることは大事ですよね。当社も各地におられる生産者の方達にも必ずお客様の声はお届けしています。

藤井 それがよく働いた時は嬉しいですよね。以前お中元シーズンに、お客様から、昨年あった電子レンジで温めて食べられる干物が今年はない、とすごく怒られたことがありました。でも、よくよく探してみると、大きく「電子レンジ対応」と明示されていないだけで、30品くらいあったんです。そこで表示の大切さをあらためて感じたのですが、嬉しかったのはこのお叱りを受けて事業部がすぐに連携してパッと動いてくれたこと。翌々日には、すべての該当商品に「電子レンジ対応」の表示が入ったのです。どうしても顧客対応部門って“孤独な一人旅”のイメージが強いじゃないですか。

板橋 同感です。ですから、私が一番嬉しいのはコミュニケーションセンターのメンバーがお客様から褒められて喜んでいる顔を見る時なんですよ。

「困ったお客様」に対する会員企業の取り組みを共有したい

―最後にJADMAに期待することがあれば教えてください。

板橋 お客様が無理難題をおっしゃる時、私は「消費者センター」や第三者にも聞いてくさだいと言いたいんです。「消費者センターへ行くぞ」とすごまれても、「どうぞ」という感じです。ですから、お客様にJADMAの知名度を上げ、問い合わせると非常にわかりやすい、というような認識を広げる活動をぜひお願いしたいと思います。

―そうですね。「消費者センター」でもいいですが、JADMAでもお困りのことがあればいつでも対応しています。第三者が入った方が絶対いい。

座親 私が期待したいのは、困ったお客様、不良売掛や不正購入をするような方に対して各社の取組みがもっと共有できないかなということです。そのあたりの役割をJADMAにお願いしたいです。

―消費者委員会でも毎回情報が上がってくるので、共有できるものは「消費者トラブル情報」として会員専用ページで公開しています。例えば、自社サイトをコピーされて詐欺に悪用されるという事件がありましたが、このような情報の共有はもちろん、警察との連携もあわせてしていくしかないでしょうね。

藤井 消費者委員会がとても勉強になっているので、参加されている会員企業やご担当者様に直接いろいろ聞いてみたいです。そのご紹介などはJADMAで行っているのですか?

若田 私が期待するのもそこですね。ちょっと他社の事例を聞いてみたいなという時に、気軽にご相談して良いのか、何かそういう場所が別途設けられているのか、そういうのがあると嬉しいかなと。

―顧客対応のご相談は通販110番で対応させていただいています。こちらは消費者の相談も受けますが、そこからどこかの会社の事例が聞きたいとご希望されれば、随時ご紹介する形になると思います。みなさんのお話を伺いたいという相談も来るかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

一同 ありがとうございました。

 

 

 

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