2015年3月号 特集 「女性顧客の心を掴むには」

 

■女性の本音をつかむには

MROCの手法を使う「ハハトコ」長期のグルインから見える「本音」とは

―コミュニティサイトなどで、いろんな女性の本音、インサイトを引き出そうとされていますが、その際に気を付けているポイントはありますか。

坂本 コミュニティサイトなので参加していただかないことには始まりません。ですので、まずは楽しんでいただくことを心掛けています。例えば、毎日プレゼントとか毎日クイズという形で千趣会をより知っていただく仕掛けを作ったり、こんな商品があったのかという気付きを提供したり、何かしらサイトを毎日訪れるきっかけを作っています。あと、力を入れているのはチャットです。皆さんベルメゾンのお客様であり、仲間意識がありますので暮らしの悩みや質問を投げかけて対話していただく。おかげさまで、公式チャットで私たちが投げかけると、すぐに100とか200の回答をいただけるような関係はできています。このようなチャットで私がいいなと思うのは、もし何かのトラブルが起きても、お客様同士で解決してくださることがある点ですね。例えば、家具のお届けサービスがどこにあるかわからない方がいると、他の方が「ここを読んだ方がいいよ」とアドバイスする。

和田 そのような参加しやすい環境というのはWeb調査でも非常に重要な要素です。自社でコミュニティサイトを運営するだけでなく、そこに参加していただいているお客様に意見を聞くことができるということ自体、普通のリサーチ会社ではなかなかできない調査だと自負しています。ただ、その一方でやはり多様化・成熟化の時代になっているので、どこをもってして「女性の本音」ととるかは非常に難しくなってきているのも事実です。昔はどのリサーチ会社も、定量調査である程度ボリュームのある層が話していることでいろいろな判断をしていました。例えば、「ボリューム層が支持しているからこれは流行るよね」とか。でも今は定量調査もそれほどあてにならない。代わりに、例えば何気ない会話の中で、「あっ!今言ったそれ!」みたいなことから流行が始まる。これをどう見つけていくのかということで注目されているのが、MROC(Marketing Research Online Community)という手法です。昨年から我々もこの取り組みを始めています。

坂本 その代表が、「ベルメゾンデッセ」の中に作ったテーマ型のインサイトコミュニティ「ハハトコ研究室」です。これはその名のとおり「母と子」から来ていて、お母さん方のパネラーが育児で悩んでいることをテーマにしてオンラインでグルインしていただいていますが、特徴としては期間が割と長くて約1カ月ある点です。例えば、最初は授乳服について、2回目は保育園のお洋服やグッズという感じで進めていくのですが、通常の座談会では1回2時間ぐらいしかお話しできないので、その時に思いつかないことって多々あるんですよね。そこで保育園に子どもを送りに行った時にふと気がついたとか、「あっ!困った」と感じた時点で、スマホで送ってもらうのです。私たちは、その困ったことは何ですかという問いかけをしながらパネラーのみなさんと共に会話して、その内容を分析していきます。長期のコミュニケーションを取っていく手法です。

自分の常識は果たして世の常識なのか?「正解がない」ことが調査の難しさ

―グルインが長期になるメリットというのは何でしょうか?

和田 近くの友人にはちょっと言えないことでも話せるようになったりすることですね。お客様が心にバリアを張らず、リラックスした気持ちで喋っていただける環境というのが、「インサイト」を探るには実は一番重要なんです。ただ、この手法はかなり時間も労力もかかるのですが、なかなか成果は出にくい。リサーチ業界的にもまだ始まって数年ぐらいの新しい取り組みですし、まだ手探り状態という段階ですね。あともう一つ最近私が心掛けているのは、定量調査を行っていく中でいただくフリーコメントを以前よりも細かく読むということ。定量の数字データからはあまり違いや変化が見えてこなくても、コメントには本音を覗かせたり、気持ちを表したりする方が増えている気がします。

坂本 社内の要望としても定性の方が増えてきていますよね。定量のように数字でふるいにかけるのではないので、面白い結果も出ますし、お客様が何を考えているのかがわかりやすい傾向がある。先ほどのMROCも商品開発に良いというのもありますが、キャッチコピーのように感情に訴えるものはやはり定性ですよね。

和田 言葉にして口に出したことで、お客様は自分が今まで気づいていなかった潜在的な欲求やニーズに気づく。「あっ、そうか、これが欲しかったんだ」とか「そうか、私はこんな悩みがあったんだ」とか顕在化してくる。やはり女性の本音を探るには、女性たちの生の声を取材するような「現場」を意識しなければいけません。ですから、定量では見えない定性にこそ重要なことが隠れていると思いますね。

―そのような調査をしていて、ちょっと難しいなと思うことはありますか。

和田 正解がないことがやはり一番難しいですよ。例えば、商品部にいれば、開発した商品が売れた売れなかったという風に、結果が非常にはっきりしてきます。でも、我々の仕事はどこまでいっても正解がないし、ゴールもない。モチベーションを維持していくのが難しい。だから女性や街や人や店に、どれだけ興味関心を持つかみたいなことだと思うんですよ。そういう意味では、行待が言っていた「おばちゃんになれ」というのは今すごくわかります。僕も「おばちゃん」のように何にでも首を突っ込みたくなっていますから(笑)。

坂本 私もそうです。「ベルメゾンデッセ」などでコミュニティをやっていると、やはり隣の人が何をしているのか知りたくなる。生活している人ってそういうことを「何となくやっている」人が多くて、理由が明確にある人はいない。それを掘り下げて知りたいですね。例えば、食器用のふきん一つとっても、どのくらいのタイミングで洗うんだろうとか。洗濯機で洗う人もいればきちんと煮沸消毒している人もいる。そういう実態を調べてみると、隣の人はどうなのか、或いは自分が「常識」と思っていることは実は常識ではないのかなんてどんどん深みにはまっていく。それを楽しく表現しているのが「ベルメゾンデッセ」なのです。もしもここで「ふきん」についていろんなインサイトを得ることができれば、当然そういう声を反映させた商品が開発されるかもしれません。

―最近気になることは何ですか。

坂本 トイレマットや玄関マットはすごく気になります。みんな本当に使っているのかなとか。掃除もしにくいですし、洗濯機で回すのは汚くないのかという問題がある。

―トイレマットは雑菌の巣になるとも言いますよね。だったら、不織布みたいな紙でできたものを毎日取り換えた方がいい。清潔好きな人ならば買うかもしれませんよ。

坂本 確かに、何枚かが束になっていて、汚れたらめくってきれいになるというものがあればいい。ちょっと開発部の人間を呼んできましょうか。(笑)

 

 

 

 

 

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