2015年10月号 特集 「テレビ通販が目指すもの」

これだけメディアが多様化していくなかでテレビだけに留まる通販は消えてしまうだろう―。そんな「未来」を示唆して業界内外から注目を集める人がいる。ジュピターショップチャンネルの篠原淳史社長だ。年間1000億円を稼ぎ出し、18期連続増収とまさしく飛ぶ鳥を落とす勢いのテレビショッピング最大手が発したこの言葉の意味は大きい。テレビ通販はどこへ向かうのかは事業者のみならず業界全体の関心事である。そこで今回は篠原社長に登場いただき、ショップチャンネルの強さの秘密、そして「テレビ通販」というものがどこを目指していくのかを聞いてみたい。

 

ジュピターショップチャンネル株式会社 会社概要

会社名  ジュピターショップチャンネル株式会社
設立年月日  1996年11月22日 ※放送開始日 1996年11月1日
所在地  東京都中央区新川1-14-1 国冠ビル
株主  住友商事株式会社 50% 株式会社BCJ-10 50%
資本金  44億円(2015年7月現在)
代表取締役社長  篠原淳史
従業員数  931名(2015年3月末現在)
事業概要  CATV放送、衛星放送、インターネット、カタログ等の媒体を通して通信販売を展開する「ショップチャンネル」の運営を中心としたダイレクトマーケティング事業

 

■魅力ある番組制作と商品選び

「想い」のある商品を選ぶポイントは「20分間」語ることができるかどうか

―まずショップチャンネルといえば、やはりバラエティに富んだカリスマゲストです。このような魅力のある番組をつくる秘訣から教えてください。

篠原 ショップチャンネルの価値というのは、「商品力」「番組力」「オペレーション力」という三位一体で進めていくこと。この方針はブレないというか不変のものです。決算発表で毎年取材に訪れるメディアの方にも「社長、今年は違う話をしてください」と頼まれますが、これがすべてなんですと(笑)。そのなかの「番組力」というのは、うちの場合はやはりゲストさんですね。商品に想いを込めて作っている人が実際に出演されて、想いを語るから視聴者にも伝わるわけですから。そういう意味では、ゲストさんというのは実は商品と不可分一体なんですよね。

―そのようなゲストと表裏一体の「強い商品」を見つけるコツはなんでしょう。

篠原 大事なのは「こだわりをもって語れるか」です。私も街で見つけたおもしろそうな商品を「これどう?」とバイヤーに提案をすることもあるんですが、そこで必ず「社長、それについて20分語ってください」と言われてやってみますが、5分くらいで話が尽きてしまう。すると「5分じゃ1時間の番組はできませんよ」と却下されてしまう(笑)。でも、これが本質だと思うんです。よそになくて、語りに語れる商品だからこそ、我々が紹介する意味がある。しかも、そこには本当にその商品に対して熱い想いをもっている人が登場する。それこそが我々の考える「商品力」と「番組力」です。

―ショップチャンネルでは、幅広いカテゴリーを扱っているので商品によってトレンドのようなものがあると思いますが、それはどのように察知しているのでしょうか。

篠原 そうですね。ほとんどのカテゴリーを扱わせていただいているので、いわば百貨店のようなワンストップショッピングができる品揃えでなくてはいけません。それに加えて、やはり「ショップチャンネルが最初に世に出した」と言っていただけるよう、感度をもってバイヤーが探しているというのが現状ですね。たとえば、アパレルだったら「ブランド」や「流行」から入っていく方法もありますが、最初に世に出た新素材をうちがオリジナルで商品化して、素材と合わせてご紹介する。そういういろんな着眼点で、世の中をどう驚かせようかと新しいものを探してきているんです。そういう良い商品を良い値段でずらりとラインナップで揃えるのが、毎年11月1日の放送開始記念日です。ショップチャンネルが1年で一番売る日で、私が就任した2007年に1日で10億円を超えて、それ以降も毎年十数億円は超えています。

ゲストの話の上手さは関係ない 「想い」を形にするのがプロの仕事

―ゲストさんによっては、もともとお話が上手だったりそうでなかったりという人もいるかと思いますが、そのあたりのサポートはどうするのですか。

篠原 話がうまい下手というのはあまり関係ありません。どのようなゲストさんであっても、その方の特性をふまえてベストなコンディションにして、魅力ある番組に仕上げるのがプロであり、我々キャストの仕事です。もちろん、フロアスタッフも同じであり、それこそが「ザ・ショップチャンネル」なんですよ。先ほども申し上げたように、一番大切なのはやはりゲストさんなので、スタッフにはゲストさんへのリスペクトを絶対に忘れないでほしいと強く言っています。そうして築き上げた信頼関係があるのでゲストさんも我々の番組に協力してくれる。こういう一体感は、スタジオでは特に感じますが、スタジオ外でも自然にそういう動きができています。たとえば、ゲストさん同士で集まるゲスト会というのが関東と関西にありますが、みなさんすごく仲が良くて盛り上がります。私もお声がけいただくので参加させていただきますが、すごく楽しいですね。

―あと「ショップチャンネル」では、スタジオを飛び出して中継なども行いますね。

篠原 そうですね。ユナイテッドアローズさんの店舗に代表されるように、小売の皆さんがお持ちの強みと、我々がもつ「生放送」という強みが本当にWin-Winになってきているので、今後もいろんなことができる関係になるといいと思います。リーマンショック後に市場環境が大きく変わっていくなかで、それまでは考えられなかった小売のトップランナーの皆さんが私たちとコラボをしてくださるようになった。トラフィックもお互い融通をできるような関係作りとともに、やはり世の中をおもしろがらせるみたいな仕掛けはマストだと思っています。もともと私たちは「日本」をキーワードに全国各地から中継を行っていますが、それは「日本」の産地の皆さんと一緒に動きますという意思表明なんです。だから私も「町おこし」などに加わっているんです。

―中継といえば、被災地の気仙沼から生中継も行いましたね。

篠原 震災前にちょうど気仙沼から中継する計画を進めて、気仙沼市長とやり取りを始めていたんです。そこで震災が起きた。実は震災の日に気仙沼のメカジキを紹介する予定だったんです。あの津波の後に電話がきて「商品が流れてしまった」という報告も受けて。そういう悔しい思いもあったし、先ほどのベンダーさんたちの応援もあって、2012年の秋にようやく中継が実現したんです。2014年には宮古市の浄土ヶ浜からも中継しましたし、10月8日は福島県いわき市小名浜港のアクアマリンパークから行いました。こういうものを今後もしっかりと続けていきたいですね。

■売上げを支える人材・組織作り

「愛」ある社員が作り出した循環を「わかりやすくする」のが社長の仕事

―18期連続で増収ですが、ここまでの業績好調の秘訣は?

篠原 必死にやっているだけですよ。よく周りには言っているんですが、「連続増収を止めた社長」と呼ばれたくないんですよね(笑)。この良い流れを止めてはこれまでの社長や社員たちに申し訳ない。そういう使命感をもって必死にやっています。あとは、社員の強いコミットメントでしょうね。弊社は4年前の15周年の時に「心おどる、瞬間を。」というテーマをつくりました。お客様に瞬間瞬間を心おどらせていただきたい、そのためには自分達も瞬間瞬間で、心をおどらせて仕事をしていなければいけないという社内外に向けてのメッセージですが、それを社員はしっかりと受け止めてくれています。やはり、もともとみんなショップチャンネルが好きなんですね。「ショップチャンネル愛」じゃないですけどね。数字というのはあくまで結果ですが、そういう強いコミットメントのもとで頑張れているのが、一番大きなバックグラウンドとしてあると思っています。

―「愛」のある人材をつくるためにはどうすればいいのでしょうか。

篠原 大切なのは「お客様を喜ばせ続けたい」という青臭い想いですよ。それをアクションとして、実践していく。その方向付けというのは、しっかり議論をして共有もする。そういうプロフェッショナリズムはもともと非常に強い会社なので、それをしっかりやっていくことで、結果が出てそれがまた励みになる、こういう循環を自らがつくり上げることができるんですね。ぶっちゃけて言いますと、私は乗っかっているだけ。すごく幸せな社長だと思っています(笑)。方向性の交通整理や優先順位付けなどを、社長として言葉で伝えてはいますが、それは社員みんながつくり上げているのを「わかりやすくしている」だけです。いわゆるカリスマ社長というのは、ゼロから循環を生み出して、会社をグーっと持ち上げていく。ただ、売上げ1,000億円を超えるとどうしても成長は鈍化します。そういう時にも社員が自らつくり出している良い循環を止めず、しっかりと成長に結び付けていくことが必要かなと思います。

社員が「燃え尽きない」ためには、勝負できて、すぐに結果が出る環境を

―自ら循環をつくる社員はどうすれば生まれますか。

篠原 燃え尽きないことですね。たとえば、一般的にバイヤーというのは5年ぐらいで燃え尽き症候群みたいなものがあるといわれていますが、うちのバイヤーはすごく社歴も長い人もいるのにまったくそういう人がいないんです。ひとつには、先ほど申し上げた「どうすれば驚いてもらえるか」みたいなところに強くコミットしているから。社内の会議でみんなが「それいいわね、私だったら買うわ」と驚かないと商品が通らない。上司も認めてくれない。そしてもうひとつは、その結果がすぐに出るということでしょう。ある意味で放送して1時間後に勝敗がはっきりしてしまう世界なので、勝ったら次はもっと大勝ちしようとなるし、負けたら次は絶対に勝つと再起を誓う。もちろん、負け続けたら叩かれる厳しさもある。私たちの世界は坪効率じゃなくて分効率なのでKPIもしっかりと出る。そういう勝負をする環境なので、新しく入ってきた社員も、頑張っている先輩の背中を見て自然にモチベーションが上がっていく。今、増収が続き、ある意味で結果を出し続けてきているので、それがおもしろくてモチベーションになっているというのもあるし、私と一緒で「この流れを止めたくない」という使命感にもなる。そういう業態としての強さを支えている自負と、さらにもっと高いところへ行けるんだという自らの期待感というか、モチベーションというのが、すごくある会社だと思うんですよね。

―方向性や優先順位を社員に伝えるなかで、ビジネス環境の変化などいろんな問題にも直面してきたと思いますが、印象深い出来事はありますか。

篠原 やはり東日本大震災ですね。不可抗力ではありますが、24時間365日休まず走ってきた我々が、立ち止まった時に初めて感じた「戸惑い」というのはありました。特にショッピングという、ああいう状況下では相反する極端なところにいる業態として、どうやって再び走り始めるのか。それでも走り出さなくてはいけないということについて、私だけではなくみんなで本当に悩んだし、苦しみ抜いて道を探しましたね。あの時の経験によって、みんなもう一段強くなったという実感を私は持ちました。たとえば、ああいう状況下でいつ放送再開をすべきかを社内で検討している時、あるベンダーさんから「自粛している場合か!」と電話をいただいたんです。「動ける人が今動いて、お金にできる人はお金にして、それを義援金へ回すとかしないでどうするんだ。そういう動ける者の最たるものがあなたたちでしょう。我々が商品を出すから売ってくれ」。この訴えにすごく背中を押されまして、社長室で男泣きしましたよ。実際に放送を再開してからしばらくして、ベンダーの皆さんが手を組んで商品を持ち寄ってくれて、それを売って実際に義援金にまわすことができたんです。

―放送を再開したのはいつのタイミングでしたか。

篠原 ちょうど震災から1週間後に6時間だけ放送したのですが、ここもかなり議論しました。おもしろおかしくやるわけにいかないのは当然として、ジュエリーのようなものは扱えないだろうなどと社内でも喧々諤々やりました。そのなかで少しでも震災復興に役に立つにはどうすればいいかということで、最初の商品は、温めるとスープとしても飲める野菜ジュースにしました。これは実際に被災地に寄贈もさせていただきました。ああいう状況下ですので出演するゲストさんや、商品を出すベンダーさんにもリスクがありますが、みんなで協力してくれた。互いに持ちつ持たれつという感じでやっているということを再認識しましたね。

―組織づくりのなかで他にも心がけていることはありますか?

篠原 やはり最後の「オペレーション力」です。コールセンターと物流という、お客様との接点で高いサービスレベルを提供することに尽きます。コールセンターに関しては正社員化を進めていますし、物流に関しても、佐川急便さんと常に情報のやりとりをして、なにかミスが起きた場合は徹底的に再発防止とか、ディスカッションを重ねてサービスの向上に努めています。ここをどこまで上げられるかというのは通販の基本であり、ネット化、スマホ化が進んでも変わりません。あとは、やはり番組を通しての双方向なので、よりお客様にわかりやすくやさしく伝えられるか。そしてセールなどがあれば必ず我々も足を運び、実際にお客様に顔を見せてコミュニケーションをとるようにしています。

■テレビ通販は今後どうなる?

テレビには出ないバイヤーも出演 ネット生放送は「第2チャンネル」

―テレビ通販の未来について伺います。篠原社長は、テレビ通販はいずれなくなるということをおっしゃっていますね。

篠原 もう何年も前から言っていて、私がそう話している記事を読んだ新卒の内定者から、「ショップチャンネルって潰れるんですか?」と質問が出たほど物議を醸し出したこともあります(笑)。ただ、メディアがネットなどで一体化していくなかで、テレビという場所だけに留まった「テレビ通販」がなくなるのは避けられないと思います。今の女性の人口動態をみても40代と60代が山になっていますが、40代の皆さんにとっては、スマホ、iPad、アプリが当たり前ですよね。ですから、テレビだけではなくこちらでも見ていただく環境を整えないと、お客様は買ってくださらないですよね。

―そういう未来をふまえて、ショップチャンネルとしてはどのような施策を打っていくのでしょうか。

篠原 これまでの「番組力」「商品力」「オペレーション力」の3つに加えて、この3年間の新成長プランの中では新たに「認知度アップ」「インターネットの強化」「海外進出」という3つの柱を加えました。先ほどの話で関連するのは、まずは「ネットの強化」ですね。これまでショップチャンネルのネットというのは注文手段のひとつであり、ネット限定商品などもなかったので自ずとそういう方針になるのですが、ただ「ネット限定」をやっても、純増にはなりません。しかも、楽天さんやアマゾンさんみたいにロングテールで商品画像を並べても勝てるわけがない。そこで私たちがネットでできることってなんだろうと考えた時に「生放送」しかないよねという結論になりました。ネット限定商品もテレビと同じく、生放送で「想い」を伝える。まだテストオペレーションなので週1回1時間だけですが、この11月からは放送も毎日1時間に拡大し、いずれは「第2チャンネル」として24時間365日生放送をしたい。お客様の幅を広げていきたいんです。

―ネット生放送はテレビとは何か違う見せ方をするのですか。

篠原 まだ仮説と検証を繰り返している段階ですが、テレビではできないチャレンジもできます。たとえば、テレビはゲストさんのみでバイヤーは絶対に出演しないのですが、ネットは出してみようとか。基本うちのバイヤーは出たがりなので、割と楽しんでやっています。恋人募集までした者もいます(笑)。あとは時間ですね。私たちはネットライブを1時間行っていますが、テレビを1時間見ても、スマホやタブレットの動画を1時間見るのはまだ難しい。まだまだ手探りですね。

通販が「機能」となったなかで、ひとりだけで戦うのは無理がある

―残りの2つの柱についても教えていただけますか。

篠原 「認知度アップ」については、通販業界全体で新規獲得が一番大きなハードルになっているなかで、やはり知名度を上げていかないことには話にならないということです。日本人でもはや髙田明さんを知らない人はいないじゃないですか。でも、ショップチャンネルの認知度なんて50%くらい、しかもその中の2割はショップジャパンさんと勘違いしていらっしゃる(笑)。そこで昨年初めてテレビCMを出しました。「40代女性」の皆さんに好感度の高い瀬戸朝香さんに出演いただいて、すごくいいコマーシャルになりまして、その後のサーベイでも認知度は上がっていますが、やはり継続的な取り組みが必要ですね。「海外進出」に関しては、ちょうどこの11月でタイに進出して2年になります。やはり先ほども申し上げたように、日本国内の環境が変わっていくなかで、業態も変わっていかなくてはいけません。そこで「海外進出」は、もともとの業態そのものを持っていくことで事業拡大できるという意味合いがあると私は思っているんです。

―つまり、日本国内の成功モデルをタイへ持っていくということですね。

篠原 ええ、ただ今も順調にタイのお客様も増えているんですが、日本のベストセラーを持っていけばそのまま売れるというほど甘いものではありません。タイは日本のトレンドフォローで、日本で売れた物が絶対にタイで売れるという部分がありますが、実際にやるとそんなに簡単な話ではない。日本のショップチャンネルがそうだったように、カスタマイズしてマーチャンダイジングを組み立てていかなければいけません。あと、タイはテレビ通販が無いなかで、ネット環境が非常に進んでいる。そう考えると、単なるテレビ通販ではなく、今まさに進めている「ネット強化」を加えて進化したものを持っていかなければいけないのかもしれない。そういう仮説と検証を繰り返しながら、種々、取り組んでいるところです。ただ、ひとつだけはっきりと言えるのは、間違いなくタイは伸びるマーケットだということですね。

―他にも可能性を感じる分野はありますか。

篠原 お店の人もやっていますし、今や通販はもう「機能」になってしまっていると思うんですよね。そういう混沌としたなかで、ショップチャンネルだけで戦うのは無理だと思うんです。だからそれぞれの強みを活かしてクロスしていく、コラボしていくことでお客様にもっと喜んでもらえる。そういう交わりにこそ可能性があるのではないでしょうか。

―お忙しいなか、ありがとうございました。

篠原 ありがとうございました。

 

 

 

 

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