2014年7・8月号 「通販を巡る法改正の動き」

 

今、通販業者に深く関係のある2つの大きな動きがある。ひとつは、「食品の新たな機能性表示制度」の実施。そしてもうひとつが改正景品表示法に新たに盛り込まれる「課徴金制度」。ともに細かなガイドラインは見えていないが、近く実施されるのは確定している。そこで、これらの新制度がどのようなもので、現在どのような議論がなされており、みなさんの事業にどのような影響があるのかをご紹介しよう。

 

■機能性表示制度

宮島理事が委員に、4つの意見を提案

来年度から「食品の新たな機能性表示制度」が実施される。健康食品業界だけではなく、食品を扱うすべての事業者に影響のあるこの制度は、安倍政権が掲げる成長戦略の目玉として閣議決定で導入が決まった(中身は別表の通り)。
制度の具体的な中身を議論するために、昨年12月に消費者庁は「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」を発足させ、学識者、消費者団体など14人の委員を選定した。この中には業界代表として、JADMAの宮島和美理事(ファンケル社長)も名を連ねた。
検討会では、主に①安全性確保のあり方 ②機能性表示のあり方 ③国の関与のあり方――について、計8回にわたって議論した。
JADMAとして、検討会で意見を表明したのは、以下の4つの点だ。
安全性の面で求めたのが、①保健機能成分(注:制度の対象となる成分)を広く取ること。これは制度の対象外となる製品を極力少なくして、実効性のある制度とするためだ。
機能性表示のあり方で主張したのは②構造機能表示(身体の部位などへの言及含む)を認めること。機能性表示の導入が今回の大きなテーマであり、消費者に分かりやすい表示を行うためには「構造機能表示」は欠かせないポイントだった。
国の関与のあり方では、③事業者の登録制を導入することと、④サプリメント法を制定することを提案した。③については、協会で既に運用しているサプリメント事業者登録制の実績を踏まえ、製品ではなく、企業の実態を捉えることで、ルールを逸脱する悪質な事業者を排除しようとの考えに基づくもの。④は、生鮮食品などと、カプセル・錠剤形状の健康食品では、GMP(製造管理基準)の義務化など、さまざまな点で違った取組みが必要なため、より実効性の高い法制化を求めたものだ。これらの意見は、事業者としての立場もさることながら、通販企業に日々寄せられる顧客の声を反映して、「お客様視点」の制度となるように提案したものでもある。

●規制改革実施計画(平成25年6月14日閣議決定)

事項名

いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物の機能性表示の容認

規制改革の内容

特定保健用食品、栄養機能食品以外のいわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物について、機能性の表示を容認する新たな方策をそれぞれ検討し、結論を得る。なお、その具体的な方策については、民間が有しているノウハウを活用する観点から、その食品の機能性について、国ではなく企業等が自らその科学的根拠を評価した上でその旨及び機能を表示できる米国のダイエタリーサプリメントの表示制度を参考にし、企業等の責任において科学的根拠のもとに機能性を表示できるものとし、かつ、一定のルールの下で加工食品及び農林水産物それぞれについて、安全性の確保(生産、製造及び品質の管理、健康被害情報の収集)も含めた運用が可能な仕組みとすることを念頭に検討を行う。

実施時期

平成25年度検討、平成26年度結論・措置
(加工食品、農林水産物とも)

所管省庁

消費者庁、厚生労働省、農林水産省

 

科学的根拠の下に、機能性表示が解禁へ

検討会では、各委員がそれぞれの立場から、さまざまな意見を表明。中には議論が対立した問題もあったが、計8回の議論を経て、このほど検討は終了。7月30日には報告書が発表された。
まとまった報告書について、宮島委員は中身をこう評価している。
「JADMAの4つの要望は、それぞれ何らかの形で前向きに報告書に反映されており、 評価できる。特に、禁止されていた構造機能表示が導入され、消費者の『知る権利』を担保する制度が出来ることは大変喜ばしい」。
この検討会の最大のポイントは「構造機能表示」が容認されるか否かであった。これまで原則禁止だった部位の表示が、科学的根拠を担保したうえで、可能となれば、消費者に分かりやすい表示が可能となり、適切な商品選択に資することに繋がるからだ。
検討会委員を務めた全国消費者団体連絡会事務局長・河野康子氏は言う。
「本当に真剣に取り組んでくださっている事業者さんがしっかりとした根拠を持っているなら、やはり消費者側としても内容を理解できるキーワードが欲しい。“なめらか”とか“すこやか”とか“やわらか”という漠然とした表示がされても『どういうこと?』となってしまう」
部位の表示がどのような形で認められるかは、まだ不透明な部分もある。表示に必要な科学的根拠のレベルは、今秋にも消費者庁が公表するガイドラインにより、具体的な内容が規定されるからだ。
しかし、制度のあり方を鑑みれば、これは「維新」とも言える大変革だ。これまでは、機能性表示を「原則禁止」にして、例外的に国の管理の下にある特定保健用食品と栄養機能食品だけで許可してきた。しかし、新制度の下では、科学的根拠などを条件に「原則自由」と180度転換するからだ。
しかし一方で、宮島委員は甘い見方を戒める。 「業界は、機能性表示という新たな“権利”を得た一方で、消費者に誤認されない表示を行う“義務”も生じる。景品表示法に課徴金制度が導入されることもあり、権利を乱用した者には厳しい罰則は避けられない。緩和を行うが、監視もするということだ」
権利を得るということは、そこには責任も付随する。それは消費者側も同じ見方のようで、今回の新制度ですべてを適応されていくということではなく、むしろ、「はじまり」として見ている部分もある。
「栄養ではなく機能ということに特化したサプリメントというカテゴリーに、今後私達がどう付き合っていくかという初めての検討が加えられた。これを事業者側もいい機会としてとらえていただきたい。サプリメントの世界に一定の秩序というか、フィルターが出てきたことで、残るものが残っていただかないと、今回の検討は無駄になってしまう」(前出・河野氏)
検討会は7月18日に終了し、30日には報告書が公表された。今後、消費者庁は報告書をベースに、この機能性表示制度の基準やガイドラインを作成し、秋にはパブコメを実施、消費者委員会での検討を経て、27年3月31日までにこの制度を実施することになる。日本通信販売協会としては、検討に加わったこの新制度が、消費者の選択に資するものとなり、業界の発展にも寄与するように、今後とも関係各方面に協力をしていく方針だ。

●機能性表示の在り方について(案)

対象食品

食品全般
(アルコール含有飲料・ナトリウム・糖分等を過剰摂取させる食品は除く)

対象成分

作用機序が考案され、直接的又は間接的に定量可能な成分
・食事摂取基準に摂取基準が策定されている栄養成分については、今後さらに慎重な検討が必要
・機能性関与成分が明確でないものの取扱いについては、制度の運用状況を踏まえ検討

対象者

生活習慣病等の疾病に罹患する前の人又は境界線上の人
(疾病に既に罹患している人、未成年者、妊産婦(妊娠計画中の者を含む)
及び授乳婦への訴求はしない)

可能な機能性表示の範囲

部位も含めた健康維持・増進に関する表現
(疾病名を含む表示は除く)

機能性表示に係る科学的根拠のレベル

◯最終製品を用いたヒト試験による実証
◯適切な研究レビューによる実証

情報開示

新制度を消費者の自主的かつ合理的な商品選択に資する制度とするため、次の2つの手段により機能性に関する情報を開示する。
◯容器包装への表示
◯表示以外の情報開示

 

■課徴金制度

課徴金は、不当表示があった商品売上げの3%?

6月6日、参院本会議で改正景品表示法は賛成多数で可決し成立した。年内に施行される予定ということで、消費者庁は秋の国会で具体的な法案を提出する予定だ。現時点ではどのようなものになる見込みで、どのような議論がなされているのか、そして通販業界としてはどのような影響があるのかを見ていこう。
まず、改正の大きなポイントだ。従来の景表法は企業の公正な競争を阻害するものを規制(独禁法の特例法)する意味があったが、消費者保護の性質がより強められた改正になる見込みなのだ。
それを象徴するのが、「課徴金制度」の導入だ。不当表示があった商品の売上げに対して一定の掛け率の課徴金額を算出し課すというもので、現在は3%や5%という案が出ている。6月10日に内閣府消費者委員会が「消費者の被害防止に有効で、必要性が高い」という答申もまとめており、改正法の目玉になる見込みだ。この背景には、改正法議論のきっかけにもなったメニューや食品の虚偽表示問題がある。措置命令だけではなく、罰則を定めることで抑止力にしようという考えがある。
そんな新制度で対象とされるのは、「優良誤認」と「有利誤認」。例えば、この商品を使うことでこんなにも素晴らしい効果が得られますよというものや、どこと比べたらこれだけ安いですよ、というような広告や表示もすべて対象となり、これに対して15日以内に合理的根拠資料(エビデンス)を提出できなければ「不実証広告」と判断され、課徴金を賦課される。
このような新制度については無論、消費者団体などからは歓迎の声があがっている。全国消費者団体連絡会の事務局長・河野康子氏(右写真)は言う。
「我々からすると、反対するところはどこもありません。消費者が後で『えっ?そうじゃなかったの?』と感じるような広告や宣伝で得た不当な利益に対して、きちんとした責任を持っていただきたいなと思います。もちろん、事業者側も自由競争のなかで差別化に懸命なのでしょうが、本当かどうかはっきりしないものは、やはり書かないと言う選択肢があって然るべきではないでしょうか」

 

「今回のような課徴金制度を導入している国はない」

一方で事業者側からは、「不実証広告」と判断される基準が見えないことに不安の声があがっている。消費者庁は、その分野の専門家が一般常識的、社会的常識、科学的根拠と照らし合わせて判断するという説明をしているが、何をもってして「常識」なのかというのを判断するのが専門家と担当官ということで、「不実証広告」なのか否かが個人の裁量によって左右される恐れがあるのではないかというのだ。明治大学大学院・上原征彦教授は言う。
「昔アメリカで、踏み台を購入した消費者がケガをして、弁護士が”上り方”が明記されていないと企業を訴えたことがあり、裁判所の判断で消費者側が勝ったということがある。それと同じで恣意的な判断で課徴金をかけられる恐れがある」
このような声があがるのには、”線引き”が見えていないことがある。不当表示とされてもそれが意図的ではなく、一定の注意義務を尽くしたという合理的反証がなされれば対象外とされるが、これも何をもってして「一定の注意義務」なのかはまだ不透明。例えば、小売業がメーカーや卸と相談して「100%カシミヤ」の商品を仕入れて販売をしたが、途中からメーカーが勝手にカシミヤではなくレーヨンを混ぜていたとしたらどうなるのか。メーカーを信頼した小売は「一定の注意義務」を怠ったのか、あるいは対象外とされるのか。かなり細かいガイドラインが求められる。
また、「抑止力」としての効果についても疑問の声があがっている。現時点の案では、被害回復などの自主的対応をとった場合、課徴金額を控除するということになっているが、現在の小売業、特に通信販売は不当表示があれば返金返品等を行うのが半ば「常識」となっており、そこで計上される損失は課徴金よりも遥かに高額だ。当初から詐欺を行うような悪徳業者の場合、被害回復をしないで課徴金を払う方がはるかに安上がりということで、制度の悪用も懸念されるのだ。
「今のままでも、不当表示をする企業だとわかるだけで必ず消費者は離れていく。経営に影響を受けるという”罰”を受けるわけで、これ自身が抑止力として機能している。今回のような課徴金制度を導入している国というのは聞いたことがない」(前出・上原教授)
広告活動などが萎縮をすれば企業の経済活動自体にも影響が出る。多くの「選択」を提示できなくなれば、それは長い目でみれば「一般消費者の選択の阻害」にもつながる。ゆえに、あまりにゆき過ぎた規制というのは消費者側も望んではいない。
「私も事業者側をいじめるような課徴金であるべきではないと思っています。あくまでも抑止力。少なくとも広告の文言を出す時にもう一度事業者さんが立ち止まって考えるきっかけになればいい」(前出・河野氏)
日本通信販売協会としては、佐々木会長と万場徹常務理事が5月7日に消費者庁からヒアリングを受け、その際に課徴金制度については基本的に時期尚早であり、導入については慎重であるべきだという意見を提出した。
佐々木会長は事業者代表の立場から、専門家、弁護士、消費者団体などだけで検討されており、一方の当事者である事業者側からは誰も検討議論に参加させてもらえていない状況で、このような重要な問題を決めていいのかということも指摘した。ちなみに、同様の指摘は新経済連盟代表理事の三木谷浩史氏からも出ている。
現在、秋の国会での法案提出を見据えて消費者委員会では報告書がまとめられている。今後パブリックコメントが募集されるのではないかと思われ、日本通信販売協会としては引き続き意見表明を行っていく。

 

●景品表示法改正案の骨子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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