2014年9月号 事業者相談 顧客対応編 「顧客が注文商品を『受け取り拒否』」

消費者基本法を始め、多くの消費者関連法の考え方は、消費者と事業者との間の情報力や交渉力の格差を前提に、消費者の利益擁護を図ることが目的とされています。しかし、一部の消費者は自己の利益を優先するあまり、その行動が事業者に損害を与えるケースがないわけではありません。
今回は、顧客側が自分の注文した商品を自己都合により「受け取り拒否」を行った結果、事業者に損害を与える可能性のある事例を取り上げました。

■相談事例①

インターネットで海外製ソファ4台の注文を受けた。当該商品は注文の受け付け後、製作にとりかかる特注品である。したがって、注文の取り消しや返品はできない条件での取引であり、支払いはクレジットカードだった。
相互に仕様の確認を行い、注文が確定したので海外に発注し、まもなくして日本に届いた。しかし、輸入手続きが完了し、顧客宅へ届けたところ、「受け取り拒否」をされてしまった。理由を確認するために、顧客にメール連絡とともに電話連絡をしたが、社名を名乗った瞬間に切られてしまった。
その後継続して電話連絡を試みたが、電話に出てくれなくなった。また、メール連絡も無視されたままである。
商品は宅配業者が保管しているが、所定の保管期間を過ぎた後は引き取ることとなる。大型品であり高額な返送料を負担せざるを得ない。さらに、当該商品が在庫品となり、最終的に他の顧客に売れなかった際には処分することとなる。当該商品の販売価格は約12万円であるが、仕入れ額に併せて往復の配送料や管理コストを考えると、多額の損害が出ることとなる。この損害を顧客に請求したいのだが、請求しても良いだろうか。(非会員)

■助言①

まずは可能な方法で 顧客に「引き取り」の要求を

結論から言えば、顧客側に正当な理由がないのに、受け取り拒否ということであれば、損害賠償請求が可能になることがある。
ただ、メール連絡が無視され、電話に出る意思がないようにも推測されるが、顧客側の意思が明確でないため、まずは文書等、連絡が可能になると思われる方法で「引き取り」を要求することが必要である。連絡がつき、「契約の解除」の申し出があった場合は、改めて双方で話し合うことになる。
全く話し合いに応じない場合には、社会通念上許容される範囲での請求が可能となろう。その範囲は、一般的には「原状回復」が可能になる範囲であり、事業者が損をしない程度と考えられる。

 

■相談事例②

顧客から、インターネットでオーダー・ウエットスーツ(特注品)の注文があった。支払方法は代引き(代金引き換え)だった。当該商品は、顧客の体形に合わせて製作に当たるため、顧客都合による申し込み後の取り消しや返品・交換は、いかなる理由においても不可としている。
ところが、製品ができ上がり、お届けしたところ、顧客が不在で配達ができず、また再三にわたり、留守番電話にメッセージを残しているが、一向に連絡が取れない。何らかの事情で、商品の受け取りを拒否されているように思えてならない。今回のような場合、どのような対応が考えられるだろうか。(会員社)

■助言②

顧客が特注品を返品する場合全額支払いを前提に交渉を

これも、①と同様、会社からの電話連絡を知りながら、折り返し連絡する意思がないように推測されるが、やはり顧客側の意思を確認するために、文書で「引き取り」を要求したり、仮にその意思がない場合の会社側の対応について説明することが必要である。
連絡がつき、「返品」等の申し出があった場合は、改めて顧客側の負担について話し合うことになる。しかし、その場合、当該商品は当該顧客にしか使用ができない商品であることから、全額支払いを前提に交渉を進めざるを得ないものと考える。

 

■相談事例③

返品された商品群についてその理由などを調査したところ、支払方法が代引きだったもののうち、その4~5割が通常の返品ではなく、受け取り拒否に遭ったものであることが判明した。
当社では、一般的な返品期間である7~14日間を大幅に超え、1カ月間の「使用後返品保証」を付けている。そのため、顧客にとっては返品しやすい会社というイメージを持たれているかも知れない。
しかし、受け取り拒否は想定していない。どのような事情があろうと、いったんは受け取って使用していただきたいと思っている。そのための1カ月間の「使用後返品保証」である。届けられず、そのまま商品が戻るだけでは配送費等のコストが大きな負担となる。良い対策案はないだろうか。(会員社)

■助言③

連絡なしの返品はペナルティのルール化を

まずは、使ってもらうことを推進したいとの思惑であれば、「使用後返品保証」をさらに周知する必要がある。さらに、抑制効果として、受け取り拒否も含め、返品の際は必ず連絡が必要であること、また、仮に連絡がなく受け取り拒否や返品が行われた場合には、使用損料など少額であってもペナルティがある旨もルール化するなどが考えられる。
要は柔軟な取引条件であっても(アメ)、実際の運用には制限(ムチ)もあるということを理解いただくことが必要ではないか。

 

■相談室長より

何より大切なことは双方の信頼関係
事業者も消費者も常識的な交渉努力を

昨今、返品特約上は「返品不可」、または返品可能であっても「販売事業者への事前連絡」や、その他を条件としているにもかかわらず、消費者の都合により、連絡をせずに返品等を行ったうえ、事業者からの連絡を拒絶するケースがしばしば見受けられます。
特に、事例のような「客注品」は、他の顧客には販売が不可能であり、結果として不良在庫化し、最終的に償却するケースが多いと思われます。企業として一定の在庫リスクは当然ですが、このような特殊なリスクに対しても、今後は一定率発生する可能性も視野に入れる必要があります。
しかし、何より大切なことは、消費者との信頼関係であり、販売する商品について返品・交換の制約がある場合は、通常の返品特約表示に加えて、丁寧な説明を心がけることが必要です。
消費者側としても、自らの意思で行った申し込みについては責任が生じることを自覚せねばなりません。売買契約が結ばれ、消費者は品物の引渡しを請求し得る債権を持ち、企業は消費者に代金の支払いを請求し得る債権をもつことになります。もし、互いの債務者が、正当な理由がないのに債務を履行しない場合、トラブルを生むことになるのは必至です。
企業側から、「内容証明郵便」で何らかの通知があり、それすらも受け取りを拒否した場合、法律上は本人に到達したものとして法的効果が生じます。その内容に「損害賠償請求」の内容が含まれている場合には、企業側による「催告」は成立していると解釈され、無視を続けた場合、調停、訴訟等に持ち込まれる可能性もあります。
ただ、仮に損害賠償請求が届いたとしても、企業の本当の目的は「賠償請求」ではなく、予測できない「受け取り拒否」について、話し合いの場につくためのきっかけづくりと理解し、速やかに連絡をして円滑な解決をはかるべきでしょう。
受け取り拒否によって企業に損害を与え、損害賠償を請求される可能性など、後の影響を考えれば、気まぐれな申し込みや安易な受け取り拒否は行うべきではありません。
今回は、「受け取り拒否」に端を発した事例を取り上げましたが、どのようなケースであっても、可能な限り顧客との意思疎通を図り、双方が納得できる解決を目指すことが必要です。どちらかだけが得をしたり損をするというのは、著しく取引のバランスを欠いた状態と言わざるを得ません。事業者も消費者も常識をもった交渉努力がなされるべきと考えます。

消費者相談室長 八代 修一

顧客対応の相談は 03-5651-1122まで(平日10:00~12:00/13:00~17:00)

 

 

 

 

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