2015年4月号 事業者相談 顧客対応編 「異物混入の苦情対応」

この冬、ファストフードに異物が混入していたとのニュースが報道されて以来、通販業界においても、購入した食品にプラスチック片などが混入していたなど、似た内容の苦情が散見されました。結果的に因果関係の特定に至らず、かつ大事に至ることもありませんでしたが、事業者からは「衛生上の管理には気をつけていても、異物混入の可能性がまったくないわけではない。苦情の際はどのように対処したら良いのだろう」との相談が寄せられます。ついては、以下のとおり、事例及び対応のポイントをまとめましたので参考にしてください。

 

■相談事例①

3年前に無料の試供品として送ったいわゆる健康食品の一部に、粒状の異物が混入していたとの苦情が寄せられた。異物を回収し専門機関で検査した結果、無害な固形砂糖菓子の欠片であることがわかった。当該製品の工場ではそのようなものは製造していないし、製造ラインでの混入はあり得ない。
結果を顧客に説明したところ「工場を見に行けず、自分で確かめることができない。その代わり相当分の交通費を払って欲しい」との要求があった。ついては、当社の気持ちとして心ばかりの粗品を送ることとした。しかし納得しないため、不本意ながら顧客の意を汲んで、米を5キロ送ることで決着した。
ところが、3年後になって、再度連絡があり「示談書をもらっていなかったのでもらいたい。また、法律に詳しい知人から聞いたが、『示談書とともに5千円~1万円の詫び品をくれるのが普通だ』と助言を受けたので対応して欲しい」と要求があった。
当然ながら「要求を受けることはできない」として、弁護士への相談を勧めたところ、「大げさになるので内内に何とかしてくれ」と要望を受けた。ついては、消費生活センター等公的機関の意見も伺ってみたらどうかと勧めたところ、「会社側から言ってくれ」と逆の要望を受けてしまった。どのように対応したら良いだろうか。(会員社)

■助言①
その場しのぎの対応をせず、毅然とした姿勢を貫くこと

まず3年前の対応については、行き過ぎた部分があったという印象が否めない。製造工程上あり得ない、しかも無害な異物混入に関して、そもそも米等を送る合理的な理由や目的があったとは考えられないからである。顧客の厳しい言動により、その場しのぎの対応がなされたかのように推測される。したがって今回についても、新しい要求には毅然として拒否する姿勢を貫くことが望ましい。

 

■相談事例②

いわゆる「調理済み食品」に異物混入があったとの苦情が寄せられた。異物は「プラスチック片状のもの」である。異物の回収や、同一製造ラインで同時期に製造した商品に混入した可能性の有無等の調査はこれから行う。初期対応として、同一製造ラインで同時期に製造した商品を中心に回収したうえで、返金をすることとした。そのような場合、食べ残しがあれば、返品を受け返金が可能だが、既に食べ終わっているものについてはどのようにするべきか。併せて、その後の対応についても相談したい。(会員社)

■助言②
消費済の食品は異物混入なしの可能性大。返金の必要はない

そもそも、回収の目的は、一般的に健康被害の拡大を防止することにある。言い換えれば「ひょっとすると混入しているかもしれない。でも、それがわからないので念のため回収する」との判断である。したがって、食品に異常がなく、既に消費したものは、混入していなかった可能性が高いものと推測できる。ついては、返金の必要はない。なお、異物が何であったのか判断が難しく、また混入経路が不明な場合は、専門機関が行う「簡易検査(顕微鏡観察)」や「機器検査」などの利用も検討の余地がある。

 

■相談事例③

弊社は「米」の流通事業者(卸業)だ。小売販売事業者に卸した「米」を購入した消費者から、異物混入の苦情が寄せられたため、言われるままに引き取り交換を行った。当該商品は「精米」であり、検査の結果「異物」は「米ぬか」であることが判明した。しかし、その後、返金も要求された。相談者の話によれば、弁護士から「異物混入により、消費者が迷惑を被ったのだから、返金は当然である」との助言を受けたとのことだった。(非会員社)

■助言③
「異物は米ぬか」と丁寧な説明を。商品は交換したので返金不要

一般的に、消費者が「米ぬか」を、「異物」であると考えることは稀である。「米ぬか」は精米時には必ず出るものであり、「精米」の付着物として有害なものではない。ついては、「異物」が「米ぬか」であったことを、丁寧に説明をすることで理解を得ることが必要である。
なお、返金については、返品として受けたのであるなら返金を行う必要があるが、商品を交換したのであるから、必要ない。

 

■相談室長より
消費者からの異物情報をできる限り収集・精査し、必要な再発防止策を講じてください

その他、「『サプリメントに異物が混入していた』などの苦情への対応方法について」などの相談も多いため、以下に基本的な対応方法を示します。
まず、現実的な顧客対応の一歩目は、異物による健康被害の有無を確認することです。食べた後で、何らかの健康被害を訴えているのであれば、直ちに医師の診断及び治療が必要です。さらに顧客の症状と診断内容、異物との因果関係を確認するために診断書も必要です。異物混入の調査を行ったうえで、その事実があり、当該異物と健康被害に因果関係が認められた場合は、具体的な補償も視野に入れ、検討せねばなりません。
異物と健康被害との因果関係が不明であると判断された場合や、混入の可能性がない場合は、初期治療費や診断書の費用負担、及び商品の返品・返金の対応が一般的であると考えられます。食べていなかった場合は、返品・返金のみで終わるケースが多いと考えられます。
さて、事業者の行うべきこととして、前述のとおり、混入していたものは何なのか、何故混入したのかを調査する必要があります。
ついては販売企業は、製造元に対し、以下の対応を依頼します。

  1. 当該異物の「簡易検査」を行い、当該異物の情報(材質・形状・状態等)を把握し、医師の判断とは別に、食べた際の健康被害の可能性について判断する。判断が難しい場合は、さらに専門機関の助力を得て、「機器検査」などを利用することもある。
  2. その情報を基に当該異物が製造現場で混入する可能性を探る。
  3. 混入の可能性があれば、その範囲を特定したうえで、ただちに混入防御策を講じる。
  4. これらの経過をまとめ、消費者に説明し理解を得る。
  5. 健康被害の可能性や混入可能性の範囲によっては、当該顧客のみならず、他の購入客に対しても注意喚起、商品の自主回収など、適切な対策が必要となる場合もあり得る。

なお、商品の特性や保管状況、その他の事情により対応が異なるケースもありますので、その都度対応方針の検討が必要になります。
身近な食品に異物が混入していたとのニュースがしばしば聞かれます。また本年1月、国民生活センターの発表によると、同センターに寄せられた食品の異物混入に関する相談は、2009年度以降累積で約1万6千件、そのうち、「異物によって歯が欠けた」「異物によって口内を切った」などの危害情報は3千件だったそうです。
消費者にとっての異物とは、本来、当該食品に含まれていないはずの、「不快感」や「不安感」を与える可能性のある全てのものと言えましょう。
もちろん、食品に異物混入があってはいけませんが、相談増加の背景には消費者の「食品の安全・安心」意識の高まりと同時に、報道が過熱した場合にはさらに食品への不安が募り、製品自体や法的な見方が厳しくなって行ったこともあげられるのではないかと推測されます。
一方で、事業者がいくら衛生管理を徹底しても、製造ラインだけでなく、流通段階や消費者の購入後に混入した可能性もあります。
ついては、異物混入時には、消費者からの情報、異物の情報をできる限り収集したうえで精査することにより、必要な再発防止策を講じることが求められます。

消費者相談室長 八代 修一

顧客対応に関する相談 03(5651)1122
広告表示に関する相談 03(5651)1139
(平日10時~12時/13時~17時)

(参考)
参考:国民生活センター「食品の異物混入に関する相談の概要」、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会「食品の回収等の考え方」、イカリ消毒/CLT研究所「食品製造現場における総合的な異物混入対策の考え方と進め方」

 

 

 

 

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